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風魔一族の陰謀【ルパン三世】衝撃のキャスト交代事件 1987

『ルパン三世』はアニメ版放送開始から半世紀を迎えようとしています。さすがに時は流れたもので、2020年現在、放送開始時のオリジナルキャストは次元大介役の小林清志さんのみとなってしまいました。

ここで第2シリーズ以降の『ルパン三世のキャスト交代』というものを振り返ってみますと、 まず挙げられるのは1995年の山田康雄さんの逝去時の栗田貫一さんへの主役交代ですね。この時は映画『くたばれノストラダムス』の公開が迫っている状況でしたので、急遽代役を務め上げた『物真似名人』の栗田さんの熱演は大いに称賛され、山田さんの後継ぎとして自然に認められたのです。
そして記憶に新しい2011年の『五右衛門、不二子、銭形の声優交代劇』の際は、この時点で既にアニメ化から40年が経っておりましたから、そこには『さすがに交代もやむなし』という肯定的なムードが漂っておりました。

栗田さんが就任した際の「徹底的に山田さんを真似をするだけです」という言葉を持ち出すまでもなく、ことルパンに限らず、人気アニメの声優交代は『オリジナルメンバーのイメージ」というものに、通常はある程度寄り添う形で行われるものです。

しかし過去に一度だけ『人気アニメの声優陣をイメージごと総取り替えする』という大事件が起こった事がありました。しかもそれがあろうことか、件のルパン三世において行われたという…

今日はそんな噺です。


ルパン三世のキャストが一新

時は1987年。僕が高校2年生の頃「ルパン三世のキャストが一新される事になった」という衝撃的な情報を持ってきたのは、クラスメイトのアニメオタクでした。その「反対の著名活動が始まっているんだ。回ってきたらお前も頼むよ。大ファンなんだろ?」という差し迫った言葉からは、その交代劇が『動かしようのない決定的な事実』なのだという重い空気が滲んでいました。
その後、程なく彼は『ルパン三世の新キャスト』を掲載したアニメ誌を持ってきました。そこに挙げられていたのは

『ルパン三世 風魔一族の陰謀
ルパン 古川登志夫(諸星あたる)
次元  銀河万丈(なんでも鑑定団ナレーション)
五エ門 塩沢兼人(ぶりぶりざえもん)
不二子 小山茉美(則巻アラレ)
銭形  加藤精三(星一徹)

というあまりにも斬新な面子でした。いやはや…それぞれの声優さんに恨みはないですが、これではやはり「ルパン」ではないのです。僕は反対著名に記入し、さらには映画が完成されたのちも、その鑑賞をボイコットしました。その思いは『そんなものはこの世に存在しないのだ』という強固なものでありまして、結局のところ僕がその映画を実際に鑑賞したのは、なんと40代になってから…つまりはごくごく最近の事なのです。

キャスト交代の理由

ルパン三世の新作映画『風魔一族の陰謀』。そのキャスト交代の理由として、当時まことしやかに挙げられたのは、以下の3つの説でした。

『ルパンの軽薄なイメージを変えたかった』

『山田康雄さんが現場に嫌われていた』

『資金難によるリストラだった』

どれもこれも最もらしい説ですが、今一つ決め手に欠く感じもします。関係者も徐々に鬼籍に入りつつある今、真相に迫るのも、もう難しくなってきておりますが、しかしながら『物事には時間を経て見えてくるものもある』のです。ここで様々な情報を基に、改めてこれらの噂を順番に検証していきます。

『ルパンの軽薄なイメージを変えたい』

これは「山田康雄の個性に毒されて、ルパンがおちゃらけたものになってしまった。今一度原点に帰り、しっかりしたルパンを制作しよう」という理由で一部のスタッフが決起したという説ですね。確かに『ブロードウェイシリーズ』から『第3シリーズ』『バビロンの黄金伝説』辺りまでのルパン三世というものは、あまりにも軽薄に設定されすぎていて、多くのファンの間でも不評でした。中でも原作漫画や第1シリーズの熱心なファンからは「こんなのはルパンじゃない」とまで言われていたのです。だからここで『かっこいいルパン』というものを再登場させて欲しいという空気は確かに当時あったのです。


しかしながらそれは作画やストーリーに責任の比重があるべきところであり、むしろ当の山田さんは「最近の軽薄なルパンは好きじゃない」とまで公言していたのです。だから『ルパンのキャラクターを元に戻したかった』というのは、この時のキャスト変更の主たる理由ではないのでなないかと僕は考えています。

その理由で古川さんの登用はないはず

さらに言えば、もしそういう理由でルパンのキャストを組み直そうと考えた場合、そこで古川登志夫さんという選択肢は絶対にないと思うのです。ちなみに古川さん自身は「特にこれまでのルパン像は意識せず自分なりのルパンを演じた」とコメントしております。その言葉通り『風魔一族の陰謀』のルパン像は、実に古川さん的な軽妙なキャラクターになっており、そこには当然『原点回帰』というようなクールな雰囲気は感じられなかったのです。

『山田康雄さんが現場に嫌われていた』

山田康雄さんはルパンの第2シリーズが進んだ辺り(1979年頃)から周囲に対する態度が横柄なものになっていたようです。特に映画『ルパン三世カリオストロの城』の試写の際の、山田さんの宮崎駿監督に対する態度が悪く「あまり感心できるものではなかった」と作画担当の大塚康夫さんが何度か証言しています(その後山田さんは宮崎監督に非礼を謝罪)。作画に専念していた大塚さんは、キャリアにおいて山田さんと接する機会がほとんどなかったそうで、それゆえに、この時の出来事がとても印象に残っているようなのです。
さらに山田さんはTVシリーズの際も、作画が間に合わないなどの不備があれば、その日の収録に応じないなど、かなり自我を通したそうです。要は山田さんは『かなり面倒くさい人』になっていたのでした。

ここで当時の山田さんの言葉を引用してみます

『ルパン三世はあまりにも白味(※作画が間に合わず、白い画面に線が流れるものにアテレコすること)が多いと録音を中止する。出演を拒否するのだ (中略) すごくワガママに聞こえるかも知れないが、トンデモナイ。かなり妥協しているのだ。こんな録音状況が今の業界ではまかり通るようになってしまったが、その責任の一端はそれを許した役者にもある』(月間アニメージュ 1979年2月号)

山田さんにしてみれば『ルパン=自分』であり、当然『自分たちがルパンに息を吹き込んでいる』というプライドがあっての言動だったのでしょうが…そんな山田さんに不満を持つスタッフが、少なからず存在していた事が当時の資料から読み取ることができます。
 

『資金難によるリストラだった』

原作者のモンキーパンチさんは、声優交代劇の理由を「東京ムービーの経営不振により経費を削減するため」だったと説明されたと証言しています。実際に1980年代に入ってからの東京ムービーはかなり財政が苦しかった様子で、1985年公開の『ルパン三世 バビロンの黄金伝説』も、それまでとは比べられない低予算での制作だったそうです(そのお陰で映画は大コケしたものの、金銭的なダメージは思いのほか少なく済んだという、あまり笑えないエピソードがあります)。
ですので、第3シリーズと映画というWの失敗により、日テレからすらも見捨てられつつあった当時のルパンに、多額の製作費はかけられないという事情があったのです。実際にこの『風魔一族の陰謀』は、もともと劇場公開用ではなく、当時流行りつつあったオリジナルビデオアニメーション(OVA)で企画制作がすすめられていました。そこからは『ローリスク&ローリターン』の精神がはっきり見て取れるのです。


誰が交代させたのか?

僕はこの交代劇を決めたのは、東京ムービーの当時の社長の藤岡豊さんと、同プロジェクトのトップだった大塚康夫さんと、原作者であるモンキー・パンチさんの三人だと思っています。そもそもこの三人以外に、この決定をできる人間はおりません。

まず藤岡さんについては純粋に制作費の問題が理由だったのだろうと感じます。当初、このプロジェクトでは『低予算で人気のあるルパンのOVAを制作し、爆発的に増えたレンタルビデオ店への販売で確実に収益を得る』という戦略を練っていただろうだけに、オリジナルキャストのギャラの高さや、山田さんの『再放送時の声優へのギャラの支払いをTV局に認めさせた』というような金銭にシビアな面というのは、何に変えても敬遠したかったのだろうと感じるのです。

大塚さんは山田さんと宮崎駿さんとのトラブルの際に、監督である宮崎さんに「ヤスベエは生意気だから降ろそう」と助言したそうです。そのことからも解るように、大塚さんは山田ルパンというものに対して特に思い入れがなかったのです。ですので藤岡さんの予算面からのキャスト交代案にも、あまり抵抗はなかったものと思われます。大塚さんはそんなこともあってか、山田さんの逝去時に「本当は作画陣と声優さんがプレスコに参加して、もっと密にその演技を反映出来たら理想だった」と、作画のプロとしての立場の難しさを吐露しています。

三人の中で一番複雑な思いを持っていたのは山田さんとも交流が深かったモンキー・パンチさんでした。モンキー・パンチさんは「声優交代は了解したが、オリジナルキャストに了承を得るようにしてくれ」とスタッフに頼んだそうです。原作者からすればオワコンになりつつあった自分の作品の新しいプロジェクトですから、変化に対して前向きになったのは無理もないことだと思います。でもそれは・・・という。

キャスト交代の後遺症

作品が正当評価されずに終わる

声優交代は従来のファンの大きな不満を招きました。それは作品に対する正当な評価にはつながらないほどのものであり(作画の良さなどが再評価されたのは大分後になってから)、『風魔一族の陰謀』はルパン作品の中でも、いまだに鬼子的な扱いをされているものになっています。

オリジナルメンバーの反応

モンキー・パンチさんの依頼は実行されることはなく、声優交代は極秘裏に進められ、山田さんをはじめとしたオリジナルメンバーには、この交代の話が全く伝えられておりませんでした。

山田康雄さん

山田さんは一年ほど後に古川さんから事の顛末を聞き、モンキー・パンチさんに抗議の電話を掛けたそうです。「これはあんたが許可したんだろう!」という強い言葉に、モンキー・パンチさんは受話器を持つ手が震えるほどうろたえ、その場は思わずはぐらかしてしまったそうです。その後、モンキー・パンチさんが謝罪したのちも、両者のぎくしゃくとした関係は改善しませんでした。山田さんの訃報を伝えられた際、最後まで山田さんとの関係改善を出来なかったという後悔の念で、モンキー・パンチさんは声をあげて泣いたそうです。

小林清志さん

後から話を聞き「まだ現役なのに何も知らされず交代されるのは納得がいかない」と怒りをあらわにしたそうです。小林さんが未だに次元役から降りないのは、僕はこの時の経験が少し影響しているのではないかと思っています。

納谷吾郎さん

納谷さんも自分の後任になった加藤さんと仕事で一緒になった際に、この声優交代の話を初めて聞き「複雑だ」と一言漏らしたそうです。

増山江威子さん

「自分も(第2シリーズから)後を継いだ立場なので複雑ですが、やはり事前に伝えてほしかったという思いがあります」というコメントを残しています。

井上真樹夫さん

なんと井上さんはTwitterでのファンとのやり取りで、2019年になってから事の顛末を知ったそうです。それで

『ウィキを通読した限りで(限りで)感じるのは極めて有能・高名なアーチスト・制作者の「反乱」であったと見る。現場の不満が鬱積していたのでしょうか。ただし、残念ながら狭隘な幼児性も否めないな。絵は上等、結果は愚行だ。残念なのは原作者の厳命を裏切り声優に極秘だった点だ。セコさが悲しい😭

と厳しい意見をツイートされております。

オリジナルキャストが復活

第2シリーズの再放送が大人気に

『風魔一族の陰謀』映画上映(1987年12月~)とOVAの発売がひっそりとなされた1988年の秋、日テレの夕方の再放送枠でルパン三世の第2シリーズの放送が開始されました。


当時の日本はバブル全盛期であり、その世情に「ルパンファミリーが世界を股にかけて大活躍」するという、第2シリーズの世界観がばっちりマッチしました。再放送は大評判になり、それを受けてある企画がスタートしたのです。

TVスペシャルの放送を発表

翌1989年、日テレゴールデンのバラエティ枠『土曜スーパースペシャル』のクイズコーナーに納谷さん、小林さん、井上さん、増山さんが突然登場しました。司会者が出題します。

「この方たちはどなたでしょう?」

首をひねる出場者たち。

「では答えです。この方に登場していただきましょう!」

その声を受けて山田康雄さんが登場しました。大いに盛り上がるスタジオ内。それは誰が何を言わなくても『ルパン三世=山田康雄』なのだと、改めて認識させられたシーンでした(僕はこれを日テレの山田さんに対するリスペクト演出だったと思っています)。

そしてそこでルパン三世の新作『バイバイ・リバティー・危機一発!』が同枠で4月に放送されることがアナウンスされたのです。こうして衝撃の声優交代劇は元の鞘に収まる形で終結したのでした。


古川登志夫さんの言葉

2020年5月にプロレスラーの木村花さんが亡くなりました。SNSの誹謗中傷が原因といわれる訃報に対して、古川登志夫さんがツイートした言葉がこちらです。

『木村花さんの訃報に心より哀悼の意を表します。
Twitterの無い頃、過激なアンチレターを沢山頂いたことがあった。トラウマになり長いこと自分の出演作品から抹消していたが、最近になりやっと出演履歴に加筆「一回でもこの作品に出演できたことを、今は誇りに思っています」と言えるようになった。』

さすがに時は流れました。

でも名作はこれからもきっと、ずっと続いていくことでしょう。

今は亡き多くの愛すべき人たちに。
この思いを捧げて。




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