オープニング映像

ゴーグルにヘッドフォン姿で寝ている修。線路沿いの騒がしいペントハウスで目覚めるや、手あたりしだい、むしゃむしゃと食事を取り始める。
脚本の市川森一氏さん曰く「食べるのはセックスの代償行為」とのことですが、それに対して萩原さんは
「後からつけた理屈だと思いますよ。スポンサーの要求で急遽撮影したもので、そんなに深く考えられたシーンじゃないから。取り急ぎその辺に転がっているものと、近場で買えるものを使った」
とおっしゃっております。
新聞をナプキン代わりにするのは萩原さんのアイディアで「撮影中に水道工事のおじさんがそうやっているのを見て真似をした」とのことです。
最後のところでは実際には牛乳を噴き出しているのですが、本放送時に何テイク(牛乳をカメラに投げかけるシーンetc)かオンエアしてみて、最終的に「噴き出す寸前のカット」でストップモーションにする事に決定したそうです。
またカットインされる修の白黒写真は、グラフィックを担当した写真家加納典明さんが撮影したものです。
全話「ニッチ」レビュー
ファンの多いドラマだけに、各話のレビューやロケ地の話などは、様々な考察サイトでもう既に語り尽くされている感があります。そんなわけで、このブログでは「個人的に気になった細かい部分」を、各話一つずつ、とことんニッチに御紹介していきます。
第1話「宝石泥棒に子守唄を」
ビルの屋上にあるペントハウスで目を覚ました修。冷蔵庫は空っぽで、食べ物は何もない。稼いだ金を使い果たしてしまったのだ。弟分の亨がやはりすっからかんで腹を空かせて訪ねてきたが、どうしようもなかった…
記念すべき初回には子役時代の坂上忍さんが出演。今と違って実に可愛い。
第2話「悪女にトラック一杯の幸せを」
空きっ腹で朝を迎えた修は、探偵社の社長・貴子から仕事の依頼を電話で受ける。「ある女性のガードを頼む。その女性の即席の恋人になり、かつてのしつこい恋人を寄せ付けないこと」という内容だった…
上野公園の西郷隆盛像の前で高級食器の叩き売り。萩原さんが名調子過ぎて、この世界でも生きて行けそう。
第3話「ヌードダンサーに愛の炎を」
都内のストリップ劇場に幕引きとして潜り込んでいる修。貴子から劇場の看板ダンサー・有明マリを至急実家へ帰すようにとの命令を受けていた。マリは財閥の娘だが、上流階級の堅苦しい生活が嫌で家を飛び出していた…
浅草ロック座を終演後に貸し切って撮影。しかし撮影開始時に客席に病死した人が残っていて(実話)大騒ぎになったとのこと。
第4話「港町に男涙のブルースを」
頻発する冷凍えびの抜荷事件を調べるため、修は小さな港町へ派遣された。ある晩、修が怪しげな女を誘って連れ込み宿で寝ていると、ヤクザ風の3人組に襲われ、着物を抱えてすっ裸で命からがら逃げ出す…
鴨川グランドホテルにプールがあった時代。本場ハワイのホテルっぽいつくり。実はお色気シーンでアンダーヘアが映っていたらしく、水面下で大問題になった回。
第5話「殺人者に怒りの雷光を」
毎晩のように乱行を続けている修。泥酔して帰る途中で目にしたのは薬局の前に立っている広告のパネル嬢で、修は顔を眺めていると不思議に心が和んだ。そしてパネルを盗み、自分のペントハウスに運び込んでしまう…
辰巳がカツラを脱いで親分に謝罪するシーン。演じる岸田さんは難色を示したものの、萩原さんと水谷さんが必死に説得して実現した。
第6話「草原に黒い十字架を」
修のペントハウスに珍しく辰巳が訪れ、美術館から時価2億円の名画「六月のマドンナ」を盗み出し、代わりに偽物を置くよう依頼する。依頼主は「六月のマドンナ」の保険を扱っている保険会社だった…
ラストの展開は非情かつ衝撃的なので、そういうものが苦手な人は避けた方が良い。萩原さんは後年、銀座で成長してホステスになっていた「なつめ」役の女性と再会したそう。生きててよかった。
第7話「自動車泥棒にラブソングを」
修のペントハウスに亨が別れの挨拶をしにきた。地方の自動車修理工場に住み込んで働くのだと言う。月給20万、ボーナス年3回、女子従業員多数らしい。そして修が亨を送り出すと、貴子から仕事の依頼が入る…
もともと第一話と想定されて脚本が書かれた回。徳子に会いに行くと浮かれる修に対して、新聞を手に何も言えない亨が切ない。人気の高い回。
第8話「偽札造りに愛のメロディーを」
辰巳から偽札偽造団を探れとの指令を受けた修。ある旅行会社に、女子学生から払い込まれたヨーロッパへの音楽留学の費用100万円のうち、50万円が偽札だったのだ。修は音楽家を装い音楽大学の女子学生を当たる…
ニセ札製造組織のアジトに貼られているのは1973年の日本プロレスのポスター。坂口征二のUN選手権がメインイベント。
第9話「ピエロに結婚行進曲を」
競馬で無一文になった修に亨が仕事の話を持ち込んできた。ある男と会い、仕事の依頼を受ければ100万円もらえるというのだ。修は半信半疑でその男に会うが、そこで「妻を殺してくれ」と依頼される…
クールなイメージの強い綾部さんが、うさん臭い結婚詐欺師相手にメロメロ。すっかりその気になっていてびっくりする。
第10話「金庫破りに赤いバラを」
南雲電気に忍び込み、金庫の書類を盗み出すよう辰巳から指令を受け、修と亨は早速実行に移す。しかし金庫破りの最中に、新たに忍び込んだ2人組に襲われ、金庫に入っていた書類と現金1千万円を持ち去られてしまった…
フォトグラフィックを担当した加納典明さんが「オカマの殺し屋」役でゲスト出演。その演技があまりにも上手すぎて、実は素じゃないかと思ったり。
第11話「シンデレラの死に母の歌を」
修と亨は、行方不明になっている億万長者の孫娘を確認しろとの指令を受ける。この億万長者は重病を患っている伊豆の山林王・上杉で、唯一の相続人が20年前に誘拐されたまま行方不明になっている孫娘・初子なのだ…
このドラマに出てくる若い女性は死ぬか不幸になるかしかないのだと確信する回。この回に「田舎のおばあさん」役で出てくる浦部粂子さんは当時73歳。僕が知っている浦部さんよりずっと若い印象。
第12話「非情の街に狼の歌を」
商社員の松村は会社の金、1億4千万円を横領して姿を消した。会社としては表沙汰にできない金だったため、綾部探偵事務所に捜査の依頼がきた。そしてまず、亨が松村の妻・由起と夫婦を装って熱海へ向かう…
熱海ビーチラインから見える「赤い橋」や「ホテル水葉亭」は今も現役で、全くこのままの様子を見ることができる。
第13話「可愛いい女に愛の別れを」
倒産した東西カメラの債権者代表が綾部探偵事務所を訪れ、社長が着服した25億円の奪還を依頼。そこで貴子は、行方不明になっている東西カメラの犬山社長をおびき出すことを考え、犬山のひとり娘の誘拐を企てる…
とにかくラストシーンが秀逸で個人的に思い入れがある回。そして有楽町を歩く「修と亨」はゲリラ撮影だったようで、多くの通行人が二人を注視している。
第14話「母のない子に浜千鳥を」
修は年末のボーナスをもらって息子・健太がいる千葉の田舎へ飛んでいった。健太は死んだ女房の菊江の実家に預けられており、父親の修はたまにしか会えないが、息子に会うのが何よりの楽しみだった…
修の年末里帰り話。義理の姉さん役の桃井かおりさんが色っぽ過ぎ。
第15話「つよがり女に涙酒を」
誘拐された島岡財閥のひとり息子・信彦を救出するよう指令を受け、修は亨と行動を開始。信彦がミツコというキャバレーの歌い手と付き合っていたという情報を掴み、ミツコが勤めるキャバレーにボーイとして入り込む…
誘拐された財閥の息子の御学友の中に、「3年B組金八先生 第2シリーズ」の「荒谷2中の不良生徒」役の子がいる。加藤勝とは今でもダチなのだろうか?
第16話「愛の情熱に別れの接吻を」
修はゴーゴークラブで知りあった桃子と一夜を共にした。翌日、貴子は修に行方不明になった大会社社長の愛人を捜すよう依頼。この愛人はホストクラブに出入りし、あるホストと親しくしているという事実が判明する…
今で言う「地雷女」の回。そして連れ込みの料金が「休憩1500円」「宿泊2500」というのは安すぎ。食料の物価はほとんど変わってないのにね。
第17話「回転木馬に熱いさよならを」
「ある遊園地の内部紛争の首謀者を探し出せ」との指令を受け、修は遊覧飛行機の係として、亨は警備員として遊園地に潜り込む。この遊園地は赤字に苦しんでおり、専務と部長が対立して紛争が絶えないようだ…
報告書待ちの辰巳が公園ではしゃいでいるシーンが怖い。
第18話「リングサイドに花一輪を」
修と亨はボクシングの練習生としてジムに潜入。依頼主はジムの地主で、自分の土地からジムを立ち退かせるよう内部から工作しろというのだ。2人はスキャンダルを起こしてジムの評価を落とそうと躍起になるが…
「風車の弥七」役で有名な中谷一郎さんと、元世界チャンピオンのファイティング原田さんのツーショットがあまりにも渋い。
第19話「街の灯に桜貝の夢を」
不況のせいか修と亨に仕事がなく、亨はクラブホステスの明美のヒモになっていた。亨と明美はスナックを開こうと決め、資金稼ぎのため、明美の提案で修のペントハウスをジュータンバーに改装することになった…
「マカロニ」と「シンコ」という「太陽にほえろ」の組み合わせが実現。ヒモ男の鑑というべき亨の、もはや潔いほどのダメ男ぶりも注目の回。
第20話「兄妹に十日町小唄を」
修と亨のペントハウスの前に男の赤ん坊が捨てられており、「健一をよろしくお願いします」という書き置きがあった。修も亨も身に覚えはなく、思案の果て、修は街の小児科医の玄関先に健一を置き去りにした…
ハイテンションで赤ん坊をあやす辰巳だが、赤ん坊は終始ムッツリ。
第21話「欲ぼけおやじにネムの木を」
辰巳から、土地成金の億万長者の裏預金の預け先を探れとの指令を受けた修と亨。土地成金の松本吉次郎は、自分が死んだ時に相続税が莫大な額になることから、3億円余りを架空名義にして銀行に預けていた…
話は軽いノリだが「戦争」「金と家族」というテーマは重く、辰巳の「戦争ってのはなぁ。どこかに良い思いをする奴がいるんだ。でなきゃ何で人間が無駄な殺し合いをするんだ」という言葉も響く。このドラマの西新宿ビル街はいつ見てもスカスカ。
第22話「くちなしの花に別れのバラードを」
修と辰巳は、華道藤宮流の事務員の依頼で家元の葉子を結婚式場から誘拐した。葉子は最近両親を失い、その上事故で体が不自由の身。そこをつけ込まれ、ある謀略により無理やり結婚させられようとしていたのだ…
修と辰巳が亨の取り合いをしながら「オクラホマミキサー」を踊るラストがシュール。
第23話「母の胸に悲しみの眠りを」
修は、多摩川に水死体で浮かんだ女性の死因を探るよう命令された。依頼主である女性の母親は、警察は自殺と判定したが娘は行方不明になる直前まで間近に迫った結婚を楽しみにしており、絶対に自殺ではないと言う…
非常階段から落下する光一。70~80年代は人形丸出しの落下シーンが多かったなと懐かしくなった。あと演技を超えて痩せすぎな萩原さんは、この頃、本当にフルオーガニックだったのだろうか?
第24話「渡辺綱に小指の思い出を」
修は暴力団・銀竜会の幹部・村田から、自分の組の賭場に札まきとして入り込みイカサマをやるよう依頼された。村田はイカサマをわざと発覚させて銀竜会の面目を潰し、敵対する金竜会に組を売り渡そうと目論んでいた…
若き日の坂口良子が本当にかわいい。
第25話「虫けらどもに寂しい春を」
修と亨は作家・高山波太郎の愛人・弘子から、高山が最近別人のようになってしまったので原因を調べてくれと依頼された。高山は急に性格はおろか食べ物の嗜好も変わり、弘子への愛し方も変わってしまったらしい…
最終回前にしてはかなり地味なお話。そして「CGは無いけど合成はあった時代」のはずなのだが、「一人二役」という演出を、完全に小松方正さんの演技に頼っているあたりは、正に「低予算」という感じがする。
第26話(最終話)「祭りのあとにさすらいの日々を」
修は久しぶりに綾部探偵事務所を訪ねたが、出てきたのは家宅捜索を行っている海津警部だった。貴子に橋の建設に絡む不正が発覚して逮捕状が出たが、すぐに察知して辰巳と共に姿を消してしまったのだった…
冒頭からいきなり怒涛の最終回展開になるので、初見時は呆気にとられること必至の回。脚本の市川森一さんは「最終回では亨に女を抱かせてやる」と宣言していたものの、ほとんど予算が残っていなかったため「ヌードグラビアまみれ」に変更したとの事。
幻の「亨」役
「傷だらけの天使」と言えば「アニキ〜」「アキラ!」という掛け合いが代名詞ですが、この「無頼な修」と「純情な亨」という設定を考えたのは萩原さん本人だったそうです。
その亨役が決定するまでは紆余曲折がありました。
火野正平さん
最初に候補に挙げられたのは火野正平さんでした。たしかに亨が「アニキ〜」と呼ぶ際の、その頼りなさげな雰囲気は、火野さんの持つイメージと被るものがありますね。そんな訳で、ほぼ火野さんで決定していたそうなんですが、しかしながら企画の段階で火野さんの人気がブレイクしてしまったのです。それによりスケジュールが押さえられなくなり「火野正平版の亨」は幻となってしまいました。
湯原昌幸さん
次に名前が挙がったのは湯原昌幸さんでした。コミカルな役をやらせたらピカイチの人ですが、湯原さんに対しては監督の恩地日出夫さんが「イメージと違う」とダメ出しをして、実現には至らなかったそうです。 僕は湯原さんを推すのも反対するのも、どちらともよく解る気がします。

最終的には萩原さんが水谷豊さんを推薦しました。萩原さんは、かつて水谷さんが犯人役で「太陽にほえろ」にゲスト出演した際の、その演技に対する真摯な姿勢というものが印象に残っていたそうで、これは大抜擢と言えるものでした。
また実年齢的にも、水谷さんは萩原さんより2歳年下で「俺より3つ下」という亨の設定に近かったのです。前述の火野さんは萩原さんの2歳年上であり、湯原さんに至っては3歳も年上ですからね。おそらく萩原さんが水谷さんが推した理由には、この年齢という事があるのだろうなと感じています。
水谷さんは当時、俳優業を辞めようかと思い悩んでいた時期だったそうですが、この「亨」という当たり役を得た事は大きな転機となりました。その後の活躍ぶりは言うに及ばずですね。
アドリブ
萩原さん曰く
「市川さんの脚本には『ここで修が浪曲をうなる』とか『台詞は現場でそれなりにお願いします』なんていうような、実にいい加減なものも沢山あって、おかげで現場ではかなり自由にやらせてもらえた」
「脚本なんてまともに書いていないから、前の日に飲み屋でみんなで考えた」
とのことです。「傷だらけの天使」の魅力の一つに、は萩原さんのアドリブがあることは間違いない事でしょう。
第6話の立小便のシーン
修が亨をチラ見して「お前は小物のくせに、持っているものは立派だなあ」というセリフは萩原さんのアドリブだそうです。
言われた側の水谷さんは「あれは後々まで誤解された」とぼやいていたそうですが、萩原さんは「小さいと思われるより良いじゃない」と意に介していませんでした。
辰巳とのやり取りはアドリブなし
修と亨の掛け合いが定番ですが、そんな二人と探偵事務所の上役の辰巳(岸田森さん)との絡みも「傷だらけの天使」の人気シーンの一つでした。
コミカルなやり取りに「アドリブがいっぱい入っているのだろうな」と思っていたのですが、萩原さん曰く「岸田さんは真面目なのでアドリブは一切なかった」とのことでした。これはかなり意外でしたね。
ちなみに岸田さんはかなりのお酒好きだそうで、ウィスキーのポケットボトルを忍ばせて、ちびちび飲みながら撮影に挑んでいたそうです。
ファッション
修と亨の衣装は菊池武夫デザインのBIGIが協力していました。ぼろぼろのペントハウスに住んでいる底辺の二人が、何故かカッコいいDCブランドを着ているというのも、今で言う「ギャップ萌え」的に「傷だらけの天使」の人気を押しあげていたのです。「修の開襟シャツとマフラー」や「亨のリーゼントとスカジャン」といった独特のファッションは、当時の若者たちのあこがれの的となりました。
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